茗荷谷の猫 

茗荷谷の猫

茗荷谷の猫

いずれも能動的な効能ばかりだった。増やして、盛り上げて、力をつける。登れ、登り切れ、行けるところまで上に行くのだとせっつかれているようで、春造は及び腰になった。ケツを叩くばかりでなはなく、例えば平穏に、心穏やかな方向に人を導く効能はないのか。それでよろしいよ、あなたはそのままでよろしいよ、と言ってくれる効能を誰も見出さぬのはなぜか。それが人にとって不必要だとでも?30頁

「それでよろしいよ、あなたはそのままでよろしいよ」 
なかなか言わないし、言われたことのない言葉だな。 言われたらとても嬉しく、安心するだろうな。

この時期から冬の間に咲く花が、どういうわけか昔からもっとも好きなのだ。その慎ましやかな佇まいや、寒中に凛と堪えている様子に心惹かれるのかもしれない。春の花は自らの役目を意識しすぎてわざとらしく見えたし、ただでさえ暑くてやりきれない時期に無駄に景色を騒がせる夏の花は、彼の忌むところだった。逆に言えば、そうした誇らしげで燦然としたものを、長く苦手としてきたのかもしれない。175頁

春の花には嫉妬するし、夏の花は暑苦しくて苦手だ。