漂砂のうたう 木内昇

漂砂のうたう

漂砂のうたう

作家というものは凄い、と改めて思った。筆一本でこのような世界を描いてみせるのだ。CGはおろか、色彩豊かな映像、迫力ある音響でごまかせる映画やTVとは違う。 
読んでいて頭の中に明治の根津遊廓がくっきりと立ち現れた。ああ贅沢な時間。このままずっとこの物語の中にいたいと思った。 

定九郎(主人公)の気持ちが絶えず揺れ動いているのも良い。 
小説を読むとよく思うのだ。主人公が「いい人」すぎやしないか?定型化されていないか?と。
人間って、もっとずるくて、迷っていて、心のなかで悪口を言っていたりするものじゃないの?と。 それともわたしが上等な人間ではないのか?そうなのか?と反省したり。

こういうのを読んじゃうと、他の本が読めなくなってしまう! ああ大好きだ。 表紙も小村雪岱だし。

雪岱。なかでも「青柳」が一番好きなの。人間がいないけど、気配が残されているの。